Y CLINIC

現代建築は、建物に要求されている機能とつながり(関係)の分析によって、内外空間のの構成をどのように提案していくかが求められている。
建築におけるモダニズムは、20世紀初頭に生み出され、時代の現象に影響を受けながら変遷してきているが、機能による構成の結果が、形態としての表現になっていることが基本的スタンスとなっている。
そこには、形態、空間、自然、詩、時代等の表現の可能性を追求するために、機能による構成の検討が幾度となくフィードバックされながら行われることが必要であり、建築家の個性がどのような表現を対象とするかにより建物のあり方が変わってくる。

建物を通して要求されてくる機能は、多くの情報量があり、それを整理し分析するだけでも労力を要し、表現を見つけ出し機能を再構成することは建築家の能力に応じた難しさが伴っている。

この建物は、病院としての機能を持ち、二つの異なる診療科目(整形外科、形成美容外科)が上下に重なりその上部に住宅を要求されていたものとなっていた。
当初、三つのヴォリュームの組み合わせについて検討を行っていたが、隣地駐車スペースの賃貸が難しくなり、急遽1F部分に吹きさらしの駐車スペースがあるピロティ形式への変更と、予算上の都合により住宅が取り止めとなった。
ピロティ形式の建物と言えば、1928年にル・コルビジェが設計したフランスのサヴォア邸が有名であり、それ以降これを超えるピロティ形式は出来ていない素晴らしい住宅がある。
現在、私達のまわりには、ファミリーレストラン等の商業建築においてピロティ形式をよく見かけるが、商業的記号としての表現が目的の結果、醜悪なものが多い。
このピロティ形式を病院という建物で出来る限り美しく造ってみたいという衝動に駆られた。
ピロティの持つ浮遊感、柱の美しさを表現すると共に、開口部の取り入れ方に検討を重ねた。

現在、建築の表現は開口部を意識させないあり方が流れとなっている。
もちろん、前面均一なカーテンウォール(窓と壁がガラス等の仕上で一体となったもの)にしてしまえば意識されないものになるが、それは、過去の完成されたインターナショナルスタイルとして、まわりのオフィスビルにいくらでも見ることができる。
あらゆる異なった機能を均一なガラス面で覆い隠せるため、結果として安易な手法となっている場合も多い。
壁と開口部の関係を内側スペースに対する機能(採光、通風)及び空間デザイン(自然光による演出)を踏まえながら、再構成していくことが重要ではないかと考えている。

この病院は、建物全体のプロポーションをスリムに見せるために、ヴォリュームを二つのグループに分け、正面においてはガラスの箱としての階段スペースとS字状にうねる曲面との対比を見せている。
階段スペースは外部に大きく開いた明るい空間となっており、ガラスの内側には霞がかったような効果を考慮してアルミのチェーンが20ミリピッチで吊り下げられている。
西側面には3F待合、診察、処置、手術室への採光に縦長い開口部が帯状に連続し、吹き抜けに面する南面へと折れ曲がり、2F待合ホールの様子が道路より窺い知れるように折れ下がっている。
2F開口部は、3F開口部を強調させるために白く焼き付けされたアルミ製のパイプルーパーによって横方向が強調され存在感が薄められている。
2F、3F待合ホールは共有する吹き抜け空間を通して、内外のバランスを考慮して取られた西側及び南側開口部より自然光が差し込んでくる透明感のあるスペースとなっている。

尚、インテリアは家具、小物、絵、観葉植物に至るまで徹底的にこだわり、予算枠の範囲でセレクトを行っている。

敷地面積 444.9㎡(134.6t)
延床面積 902.9㎡(273.0t)
竣  工 2001年
photo   Kouji Okamoto
構造設計 吉原建築構造計画
施  工 若築建設