2010.01.12
太宰治生誕100年
去年は、太宰治生誕100年ということで「斜陽」、「パンドラの箱」、「ヴィヨンの妻」
などが上映され話題を呼びましたが、今年はいよいよ「人間失格」が
2月20日より上映されます。
「人間失格」はたぶんだれが読んでも自分の中の何かに響く小説です。
一見、表題によって難解のように感じるかもしれませんが、
ボクには主人公の気持ちの一部は、理解もできましたし
普通に読めた記憶があります。
「人間失格」における主人公と友人の間に交わされた言葉の中で
悲劇的喜劇と喜劇的悲劇について語られる部分が興味深く
人間における複雑さを垣間見るシーンとして特に印象に残っています。
物事は一見、悲劇的に見えても結果的にそれが喜劇的なものであったり
喜劇的に見えても悲劇的なものであったり、
主人公を通しての多義的な解釈について考えさせられました。
また、どちらにせよ悲劇的な不幸に対し冷徹に語れるところが
自身がたくさんの不幸をばらまいていることに対し
シニカルな太宰らしい解釈でもあるのですが-----–。
さてそんな心の中を描いた「人間失格」をどのような映像で表現するのか
興味が湧いてきます。
昔、森田芳光が夏目漱石の「こころ」を映画化していました。
「こころ」は小説自体もボクには難解に感じていましたが
映画では見事に表現していたと思います。
太宰は、当時、女性の気持ちで書くことができる作家の一人で
女性の独白で始まる「ヴィヨンの妻」を始め、
本当にうまいと感じる小説がいくつもあります。
また、情けない男、自信の無い男を書かせたらぴか一で
当時の自信が持てない若者であったボクの心にはとても響くものがありました。
「竹青」という短編小説はまだ若くて自身のない人にとって
勇気を与えてくれる美しくはかない物語です。
また「御伽草紙」は、日本のむかし話を太宰流に書き換えたものですが
浦島太郎が亀に乗り海の中を竜宮城に向かうシーンなどは
素晴らしく美しい文章で描かれており、美しい文章を書くことにかけてもぴか一です!
ところで昨日の成人の日に近くの本屋にぶらりと寄って、
塩野七生の「ローマ人の物語―迷走する帝国」を買いました。
「ローマ人–」は、昔、出版される度にハードカバーで購入していたのですが
しばらく中断してまた最近、文庫本で読み始めました。
迷走する帝国は3世紀のローマ帝国を描いています。
また、次男に太宰の「ろまん燈籠」の文庫本を買い、読むように渡しました。
これなどは、太宰治が苦手と思う人にも是非、読んで欲しい小説です。
5人の兄弟が恋愛の物語を自分の都合に合わせてつないでいく物語ですが
小説を読む面白さを味わせてくれます。
太宰という人は草食系男子が増え続ける現代において
男としての弱さや狡さ、頼りなさなどその精神構造の一部で
共感しやすい作家かもしれません。