2011.05.10
商品化住宅について
商品化住宅におけるプライベートスペースの間取りのあり方について
ここ1ヶ月間悩んでいる中、担当のフジヤマから以前新建築に掲載された
難波和彦さんの論文「一室空間的住居の近未来」を教えられ読んでみました。
それによれば、家族の解体、女性の自立、子供のいない家族や単身家族の増加と
いった社会現象が進行する中、一室空間的住居が増加しているとのことでした。
依然としてnLDKという旧態依然とした建売やマンションが主流となっているが
これは、前記のような社会現象を正面から受け止めておらず、
早晩淘汰されるだろうと言われています。
これまで住宅の設計においては、
そこで繰り広げられる生活行為つまり機能と空間配列を想定しながら設計するものの、
それに対し特定の機能を想定した空間配列は
自由な生活行為を規制してしまうという批判は
「空間配列は生活行為を決定づける」
ということを前提としている。
しかし、完成した住宅においては、機能が壁によって規定され、
他の空間と切り離されていない限り、
生活行為と空間配列は必ずしも対応していない。
壁がなければ生活行為と空間配列の対応は基本的に緩やかであると述べています。
また、一方でミース・ファン・デル・ローエによる
「機能は時とともに変化するから、機能に対応した空間を想定すべきでない」
という有名な批判があるがこの均質空間の概念は、すべての機能を受け入れる空間は
いかなる機能も受け入れないと言い切っています。
さらにもう一つの考え方として
「機能は前もって想定されるだけではなく、新たに発見されるものである」という
ことを挙げ、この場合、機能には設計の際に前もって想定される機能(事前機能)と
でき上がった空間配列と現実の生活行為との相互作用によって新たに発見される機能
(事後機能)という二つの機能を挙げています。
クライアントや建築家の「希望」や「幻想」は、事前機能に反映されるとともに
事後機能にひそかに忍び込む関係となっている。
住まいの設計においては、前もって生活行為と空間配列の対応(事前機能)
を想定しなければ生活行為に拠り所がなくなり、
生活行為と空間配列のとの相互作用は生まれない。
したがって、「壁」によって一義的に規定せず、生活行為と空間配列を緩やかに
対応させることが、新たな対応(事後機能)の発見を喚起させることになり
それは一室空間的住居によって可能となると述べられています。
これを読んで、これまで悩んできたことが整理されたように思いました。
現在、進めている商品化住宅の場合、これまでの一個人としてのクライアントから
ある世代を対象とした不特定のクライアントを受け入れることを考慮すると
この3つ目の考え方がもっとも適合できるものとして理解できます。
建物を自由度の高いフレキシブルな枠組みとして捉えることも可能ですが
そのフレキシブルが結果的に無個性になってしまうことに懸念を持つとともに
反対に建築家としての個性が強く出たものにも対象を狭くしてしまう懸念がありました。
フレキシブルさは結果的にその建物を扱う工務店に対し、
プラニング力を求められることに繋がり、
今回想定されているこの住宅の建設システムにそぐわないと考えています。
また、クライアントとしても難波さんが言われているように生活空間の拠り所を
見つけることができず、求められる生活のイメージを喚起できない可能性があります。
したがって、
1、事前機能としてのある程度の枠組みを与えること
2、その枠組みとしての構成が結果的に明快な外観デザインとなっていること
3、枠組み以外のスペースにおいて事後機能としての対応が可能であること
以上の3点を重視した住宅にしたいと思っています。