2012.11.18
大西麻貴氏講演とルイス・バラガン
昨日は大西麻貴さんとアーキンディー主催のルイスバラガンの二つの講演をはしご。
*上記スケッチは講演会用のフライヤーの一部を使用させていただいています。
午後4時より九州産業大学主催による大西麻貴氏の講演にスタッフとともに出席。
準教授の矢作氏による招聘によって実現した大西氏にとって初めての講演でした。
大西氏は、今年、29歳で新建築賞を「二重らせんの家」において受賞。
新建築賞はむかしの吉岡賞が改名されたもので
住宅建築における新人賞のような意味合いがあります。
作家の新人賞のようなものですが簡単に取れるものではありません。
彼女は京大の学生時代から注目されており、
建築界における将来のスターとして期待されています。
講演は、まず彼女における三つのこだわりについての説明から入りました。
1, 佇まい
2, かたちの持つ質感
3, 愛される建築
佇まいは、敷地又は周辺と建物の関係性について
かたちの持つ質感は、色々な物の視覚を通しての触感や嗅覚への刺激は
視覚以上に記憶として残ることに対する興味
愛される建築は、建築というものが創造から実現に至るまで様々な
コミュニケーションによって成立するならば
それはその後、愛される建築となるだろうという希望かもしれません。
次にこれまでのプロジェクトの紹介。
福岡市東区の埋立地に建てられた「ぐりんぐりん」
敷地横スペースを使用して設計者の伊東豊雄氏によって企画されたフォーリー
(西洋庭園におけるオブジェ的東屋)を学生チーム同志によるコンペによって選ばれ
矢作さんの設計監修協力によって実現した「地層のフォリー」の説明。
これを通し、みんなで造る意味を学んだとの事でした。
その後、デザインレビューにおいて注目された卒業設計「図書館×住宅」の説明。
細長い空間が好きで、シークエンシャルな体験の構築が重要だったとの話。
大学を卒業後の最初のプロジェクト「千ヶ滝の別荘」においては、佇まいを意識。
インスターレーションやコンペ、会場構成などを行った後、
卒業後、初めての実作となる「二重らせんの家」の説明。
敷地周辺のデザインサーベイによる路地空間という文脈と
旗竿敷地ながら二方向へ抜けている敷地の持つ特性を考慮しての提案は
とても説得力があるとともに彼女が卒計で提案されていたシークエンスの展開と
細長い空間が好きだと言う特徴が、ホワイトキューブの三層のコアに
路地空間が二重らせんとしてまとわりつき上昇するものとして
反映されていることを感じました。
童話の世界のようなポエティックなイメージスケッチは、
非常に女性らしさを感じ一瞬、空想的のように見えますが、
それを表現するための骨格としての構造的考え方はしっかりとしており
若いにも関わらず素材に対するこだわりとともにすでにきちんとした
ベースができていると思います。
通常の建築を志す学生がアトリエ系事務所で修業を積んで独立をするのに対し
彼女は学生時代の瑞々しい感覚を失わずに実作が造れていることは
矢作さんによる実施設計を含めた協力が非常に大きいのではと思います。
現在は、横浜国立大大学院Y-GSAの助手として小嶋浩さんともに
震災復興プロジェクトの石巻市近郊の町づくりの調整にかかりきりだということでした。
高台避難に対する土地造成のあり方をこれまでの土木的見地以外からの
建築的アプローチによって説得力のある提案をされており、
是非、実現することを期待します。
矢作さんありがとうございました!
6時に終了後、今度は急いで7時から始まるアーキンディー主催へ移動
建築を志しメキシコに滞在された経験のある女性の方より
メキシコの歴史、気候など背景についての説明の後、ルイス・バラガンについての紹介。
二人目からはバラガン建築を観てこられた4人の建築家(柳瀬、橋迫、古森、松田)より
夫々の感想が述べられました。
柳瀬氏からは、バラガン建築の陰影の本質についてshadow(影)ではなく
shade(陰)であり、その陰によって空間の奥行が造られているとの指摘があり
さすが、日本建築の本質にも通じる感想でバラガンはメキシコの強い光による
shadowが特徴だと思っていましたが、確かに内部空間においては光が制御されており
それによって住宅という空間が宗教的な静かさとして表現されているように思います。
また、柳瀬氏の指摘によるキリコの絵にあるようなシュールな絵画的世界というのも同感で
開口部からのグラデーション状のshade(陰)や
奥の開口部からバウンドして入り込む明るさの中、
空間全体が巧妙に配置された様々な置物
(スタンド、椅子、テーブル、額、鏡面の球体、イコンなど)によって補完され
形而上的静的世界によって造られていると思いました。
意外に思われたのは、メキシコシティの気候は高地にあるため季節の寒暖の差が少なく
むしろ昼と夜との気温差が大きいということでした。
したがってバラガンの開口部はほとんど嵌め殺し窓(Fix窓)になっており
家の中に風を通すような発想ではないということです。
明るいラテンの開放的住まいというイメージとは、随分と違っていました。
やはり住宅というものはその地域の気候によって性格が大きく変わってくるものであり
バラガンの住宅がどんなに素晴らしいとしても、時代、地域、宗教による価値観によって
成立しているものであり、学ぶにはそれを踏まえた慎重さが必要だと思ったのが
ボクの今のところの正直な感想です。